2023.03.15

知的財産の一括改正法案が閣議決定、DX時代の知的財産のあり方は

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はじめに

令和5年3月10日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。
国会審議はこれからになります。

今回の改正は、
「デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化」
「コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備」
「国際的な事業展開に関する制度整備」
を目的としたもので、
知的財産権6法(不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権特例法)を一括で改正するものです。

本稿ではこの一括改正の全体像を解説し、詳細は別記事で解説します。

1.登録可能な商標の拡充

【コンセント制度の導入】

現行法では、他人が既に登録している商標と類似する商標は、その他人が登録に同意していても登録はできません。
改正案では、先行商標権者の同意があり、出所混同のおそれがない場合には登録可能とされます(商標法第4条第4項(新設)、第8条等)(改正ポイント①)

諸外国では、先登録商標権者の同意があれば登録が認められるいわゆる「コンセント制度」が導入されている国が多いですが、日本では未導入でした。

日本で、先願商標と類似する商標の登録をしたい場合には、
1.後願の商標登録出願人の名義を一時的に引用商標権者の名義に変更することで引用商標権者と新たに出願する出願人の名義を一致させる。
2.本規定に基づく拒絶理由を解消し、商標登録を得る
3.引用商標権者から元の商標登録出願人に再度名義変更を行う
といった「アサインバック」という手法が活用されてきました。しかし、権利の一時的な移転に伴うリスクや、説明・交渉・費用負担が大きく、これらの負担が軽減され、「コンセント制度」と「アサインバック」を使い分けることが可能になります。

なお、合わせてこれにより登録された商標について、不正の目的でなくその商標を使用する行為等を不正競争として扱わないこととされます(不正競争防止法第19条)。

【他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和】

現行法では、他人の氏名等を含む商標はその他人の承諾がない限り登録できませんでしたが、
改正案では、商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている他人の氏名でない限り、その他人の承諾なく登録可能とされます(商標法第4条第1項第8号)(改正ポイント②)

近年の審査実務ではこの他人の承諾が厳格に解釈される傾向にあり、同姓同名の他の個人が存在する場合、その全員から承諾を受けなくてはなりませんでした
特にファッション業界ではTAKEO KIKUCHI、YOJI YAMAMOTO等、有名デザイナーが自身の氏名を含む商標を用いることが商慣習となっており、これらが海外では商標登録が認められるが日本では登録を受けることができない、といった状況がありました。

この登録要件の緩和により、ファッション業界を中心に、自身の氏名を含む商標の保護が受けやすくなります。

2.意匠の登録手続の要件緩和

【新規性喪失の例外の適用の手続要件の緩和】

現行法では、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した意匠が、新規性喪失の例外の規定の適用を受ける為には、公開されたすべての意匠について証明書を意匠登録出願の日から30日以内に提出する必要があります。
改正案では、証明書に最先の公開された意匠について記載すれば、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられるとするものです(意匠法第4条第3項)(改正ポイント③)

バリエーションの意匠を創作し、マーケティング・ファンディングのため複数経路で公開されることも少なくない意匠実務の実情に即した改正案となっており、
これにより、創作者等が出願前にデザインを複数公開した場合の救済措置が受けやすくなります。

3.不正競争防止法上の保護強化

【デジタル空間における模倣行為の防止】

現行法では、 デジタル空間上での商品形態の模倣行為について不正競争行為の対象とされていませんが、
改正案では、模倣した商品形態を電気通信回線を通じて提供する行為は不正競争行為対象となります(不正競争防止法第2条第1項第3号等)(改正ポイント④)

これにより例えば、実在する商品の形態をバーチャルな3DCG モデルとして忠実に再現し、ネットワークを通じて送信して、ユーザーの端末画面上に画像又は映像として表示させる行為は不正競争行為となり、差止請求権等を行使できるようになります。

【営業秘密・限定提供データの保護の強化】

(1)営業秘密が限定提供データの範囲が広げられ、ビッグデータを他社に共有するサービスのデータなども限定提供データに含まれるものとなります(不正競争防止法第2条第7項)。
(2)損害賠償訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護が強化されます(不正競争防止法第5条等)。
(3)裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された場合に閲覧制限が可能となります(特許法第186条、実用新案法第55条、意匠法63条等)。

これらの改正案により、営業秘密・限定提供データの保護が強化されます。

4.コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備

(1)在外者へ査定結果等の書類を郵送できない場合、公示送達が認められます(特許法第191条)。
(2)特定通知等を電子情報処理組織を利用して行う条件が緩和される等、インターネットを通じた送達制度が整備されます(工業所有権特例法第5条等)。
(3)パリ条約による優先権主張の証明書の電磁的方法による提供を認める他、その他特許等に関する書面手続のデジタル化が推進されます(特許法第43条、工業所有権特例法第8条等)。
(4)Madrid e-Filingを利用した商標の国際登録出願では、特許庁とWIPOの手数料の一括納付等ができるようになります(商標法第68条の2)。
(5)中小企業の特許に関する手数料の減免について、資力等の制約がある者の発明奨励・産業発達促進という制度趣旨を踏まえ、一部件数制限が設けられます(特許法第195条の2等)。

これらの改正案により、利便性の向上、公平な制度運営が期待されます。

5.国際的な事業展開に関する制度整備

(1) OECD 外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、外国公務員贈賄に対する罰則が強化・拡充されます。具体的には法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とされます(不正競争防止法第21条等)。
(2)国際的な営業秘密侵害事案における手続を明確化するため、国外において日本企業の営業秘密の侵害が発生した場合にも日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不競法を適用することとされます(不正競争防止法第19条の2等)。

これらの改正案により、より一層の国際調和が図られます。

今回は改正事項が多いですが、率直にユーザーにとって制度が使いやすくなるものが多く感じます。
この後の審議等に、引き続き注目です。

岡崎

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